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平成30年度宅建試験で出題される法改正 ~ 建物状況調査(インスペクション)

  公開日:2018/05/31
最終更新日:2024/04/12

※この記事は約10分で読めます。

こんにちは、四谷学院通信講座の甲斐です。
本年度(平成30年度)の宅建試験は「平成30年(2018年)4月1日」の時点で施行されている法令が出題されます。
そこで、この日までに施行された法改正のうち、宅建試験対策として押さえておくべき事項を見ていきます。
今回は、宅建業法改正である「建物状況調査(インスペクション)」についてです。

【2023年3月17日追記】
建物状況調査に関する法改正の施行から数年経過し、宅建試験において頻出事項となっていることから、記述内容の拡充を行いました。

建物状況調査(インスペクション)とは何か

建物状況調査(インスペクション)とは、既存建物中古建物の状況の調査のことで、国土交通大臣の定める講習を修了した建築士が実施するものをいいます。
建物状況調査とは何かについては、宅地建物取引業法34条の2第1号第4号に規定されていることから、宅建試験では「宅地建物取引業法34条の2第1号第4号に規定する調査」などと記載されることがあります。

そして、建物状況調査の対象となるのは、既存建物の「①構造耐力上主要な部分」又は「②雨水の浸入を防止する部分」の状況です。①・②を合わせて「建物の構造耐力上主要な部分等」といいます。

建物の構造耐力上主要な部分等とは何かについては、下記の宅地建物取引業法施行規則15条の7が細かく規定しています。

宅地建物取引業法施行規則第15条の7
1項 法(宅地建物取引業法)第34条の2第1項第4号の建物の建物の構造耐力上主要な部分として国土交通省令で定めるものは、住宅の基礎、基礎ぐい、壁、柱、小屋組、土台、斜材(筋かい、方づえ、火打材その他これらに類するものをいう。)、床版、屋根版又は横架材(はり、けたその他これらに類するものをいう。)で、当該住宅の自重若しくは積載荷重、積雪、風圧、土圧若しくは水圧又は地震その他の震動若しくは衝撃を支えるものとする。
2項 法第34条の2第1項第4号の建物の雨水の浸入を防止する部分として国土交通省令で定めるものは、次に掲げるものとする。
 住宅の屋根若しくは外壁又はこれらの開口部に設ける戸、わくその他の建具
 雨水を排除するため住宅に設ける排水管のうち、当該住宅の屋根若しくは外壁の内部又は屋内にある部分

建物状況調査の実施義務の有無/既存建物の範囲

宅建業法では、既存建物の取引(売買・交換・貸借)に際して、宅建業者に対して建物状況調査を実施することを義務付けていません
宅建業者に対して義務付けているのは、後述するように、既存建物の取引に際して、建物状況調査に関する記載や説明をすることであるというのがポイントです。

建物状況調査の実施義務がないことは、宅建試験の頻出事項である「建物について耐震診断を受ける義務がない」こととセットで覚えておくとよいですね。

また、建物状況調査に関する記載や説明の対象となる既存建物は、現時点では既存住宅中古住宅)に限定されています。
したがって、同じ既存建物であっても、人の居住の用に供する家屋、アパート、マンションなどは、建物状況調査に関する記載や説明の対象に含まれます。
しかし、事務所・店舗・工場などは、建物状況調査に関する記載や説明の対象に含まれません。

既存住宅に限定しているのは、上記の宅地建物取引業法施行規則第15条の7が「住宅」と規定しているからです。もっとも、今後の宅地建物取引業法施行規則の改正で、事務所・店舗・工場なども対象に含まれる余地は残されています。

建物状況調査には3つの場面がある

宅建業法は、既存建物の取引に関する「媒介契約書」「重要事項の説明」「37条書面」という3つの場面で、宅建業者に対して、建物状況調査に関する記載や説明を義務付けています

上記のとおり、建物状況調査に関する記載や説明の対象は既存住宅に限定されています。すなわち、建物状況調査に関する記載や説明の義務は、中古の住宅の取引においてのみ生じます。中古の事務所・店舗の取引においては、建物状況調査に関する記載や説明の義務が生じません。

3つの場面を具体的に見ていこう

それでは、宅建業法が定めている3つの場面を確認しておきましょう。

媒介契約書への記載

既存建物の売買・交換の媒介契約を締結した場合、宅建業者が依頼者に交付する媒介契約書に「依頼者に対する建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項」を記載することが義務付けられました。

貸借の媒介の媒介契約を締結した場合については、そもそも媒介契約書の作成が義務付けられていない、というのは頻出事項ですね。

重要事項の説明と35条書面への記載

既存建物の取引について、下記の(1)(2)の事項が、宅建業者が取引の相手方に説明しなければならない重要事項に含まれています。
これに対応して、下記の(1)(2)の事項を、取引の相手方に交付する35条書面(重要事項説明書)に記載することも義務付けられています。

(2)の事項(設計図書等の保存状況)は、貸借の場合は重要事項に含まれないので、35条書面への記載も不要です。これに対し、(1)の事項(建物状況調査の実施の有無および実施している場合の結果の概要)は、貸借の場合も重要事項に含まれるので、35条書面への記載も必要です。

既存住宅の貸借の媒介を行う場合、建物の建築及び維持保全の状況に関する書類の保存状況について説明しなければならない。(令和元年度問39)
【解答】×((2)の事項なので貸借では重要事項に含まれない)

(1)建物状況調査の実施の有無および実施している場合の結果の概要

建物状況調査(実施後1年を経過していないものに限る)を実施しているか否かが重要事項に含まれます。
つまり、過去1年以内に建物状況調査を実施しているか否かが重要事項に含まれます。

さらに、過去1年以内に建物状況調査を実施していれば、その結果の概要(調査対象部位ごとの劣化事象等の有無など)も重要事項に含まれます。
これに対し、過去1年以内に建物状況調査を実施していなければ、その結果の概要は重要事項に含まれません。

令和6年(2024年)4月施行の宅地建物取引業法施行規則の改正で、過去1年以内の原則は維持するものの、「鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造の共同住宅等」については、例外的に「過去2年以内」としました(宅地建物取引業法施行規則16条の2の2)。
詳細は下記の記事をあわせてご確認ください。

建物状況調査の重要事項説明に関する宅地建物取引業法改正が施行されました


宅地建物取引業者が建物の売買の媒介の際に行う宅地建物取引業法第35条に規定する重要事項の説明に関して、当該建物が既存の建物(一戸建て住宅とする。)であるときは、宅地建物取引業法第34条の2第1項第4号に規定する建物状況調査を過去1年以内に実施しているかどうか、及びこれを実施している場合におけるその結果の概要を説明しなければならない。(令和4年度問34改題
【解答】〇

(2)設計図書等の保存状況

設計図書等とは、「設計図書点検記録その他の建物の建築及び維持保全の状況に関する書類で国土交通省令で定めるもの」(宅地建物取引業法35条1項6号の2のロ)のことです。

設計図書等の保存状況については、設計図書等の保存の有無(存否)や、保存されている場合の保存先などを説明すべきとされています。
たとえば、設計図書等が保存されていない(=存在しない)場合には、その旨を説明しなければなりません。

なお、設計図書等のうち「国土交通省令で定めるもの(書類)」とは何かについては、下記の宅地建物取引業法施行規則第16条の2の3が細かく規定しています。

建物の売買の媒介を行う場合、当該建物が既存の住宅であるときは当該建物の検査済証(宅地建物取引業法施行規則第16条の2の3第2号に定めるもの)の保存の状況について説明しなければならず、当該検査済証が存在しない場合はその旨を説明しなければならない。(令和4年度問36)
【解答】〇

宅地建物取引業法施行規則第16条の2の3
法(宅地建物取引業法)第35条第1項第6号の二ロの国土交通省令で定める書類は、売買又は交換の契約に係る住宅に関する書類で次の各号に掲げるものとする。
 建築基準法第6条第1項…(中略)…の規定による確認の申請書及び同法第18条第2項…(中略)…の規定による計画通知書並びに同法第6条第1項及び同法第18条第3項…(中略)…の確認済証
 建築基準法第7条第5項及び同法第18条第18項…(中略)…の検査済証
 法第34条の2第1項第4号に規定する建物状況調査の結果についての報告書
 既存住宅に係る住宅の品質確保の促進等に関する法律第6条第3項に規定する建設住宅性能評価書
 建築基準法施行規則第5条第3項及び同規則第6条第3項に規定する書類
 当該住宅が昭和56年5月31日以前に新築の工事に着手したものであるときは、地震に対する安全性に係る建築基準法並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合するもの又はこれに準ずるものであることを確認できる書類で次に掲げるもの
  建築物の耐震改修の促進に関する法律第4条第1項に規定する基本方針のうち同条第2項第3号の技術上の指針となるべき事項に基づいて建築士が行った耐震診断の結果についての報告書
  既存住宅に係る住宅の品質確保の促進等に関する法律第6条第3項の建設住宅性能評価書
  既存住宅の売買に係る特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律第19条第2号の保険契約が締結されていることを証する書類
  イからハまでに掲げるもののほか、住宅の耐震性に関する書類

37条書面への記載

既存建物の取引(売買・交換)について、所定の者に交付する37条書面に「建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項」を記載することが義務付けられています。

「建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項」は、貸借の場合は37条書面への記載が不要です

宅地建物取引業者は、その媒介により建物の貸借の契約を成立させた場合において、当該建物が既存の建物であるときは、建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項を37条書面に記載し、当該契約の各当事者に交付しなければならない。(令和3年度12月問26)
【解答】×(貸借の場合は記載不要)

具体的には、当事者の双方が確認した事項がある(建物状況調査の結果の概要を重要事項として説明した)場合は、確認した事項の概要を37条書面に記載して、確認した事項を「有」と記載します。
これに対し、当事者の双方が確認した事項がない(建物状況調査の結果の概要を重要事項として説明しなかった)場合は、確認した事項を「無」と記載します。

既存の建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項がない場合、確認した事項がない旨を37条書面に記載しなければならない。(令和2年度12月問37)
【解答】〇

建物状況調査についてのまとめ

建物状況調査に関する記載や説明は、貸借の場合に義務付けられない場面が出てくるのがポイントです。
建物状況調査が導入された平成30年度以降、宅建試験では頻出ですから、しっかりと整理しておきましょう。

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