こんにちは、四谷学院宅建講座の甲斐です。

民法の相続の分野を中心に改正する「相続法改正」が2018年7月に公布されました。
原則として1年以内に施行される予定です。
しかし、相続法改正の内容が本格的に出題されるのは2019年度の宅建試験以降です。

現段階では、相続法改正について、主な改正点を知っておけば十分でしょう。

【参考】法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」

相続法改正による主な改正点

現段階で知っておきたい改正点は、
(1)配偶者の居住権を保護する方策
(2)相続された預貯金債権の仮払い制度
(3)自筆証書遺言の方式緩和

以上の3つです。

それぞれ詳しく見ていきましょう。

配偶者の居住権を保護する方策

相続法改正では、夫婦の一方が死亡した場合、その他方(生存配偶者)が、夫婦で居住していた建物に引き続き居住することができるように、以下の2つの居住権を新設しました。

(1) 配偶者短期居住権
遺産分割が終了するまでの間といった比較的短期間に限り、生存配偶者の居住権を保護する制度
(2) 配偶者居住権
生存配偶者がある程度長期間(基本的には終身)その居住建物を使用することができるようにする制度

相続された預貯金債権の仮払い制度

預貯金債権(銀行や郵便局の口座にある金銭)は、不動産、動産、現金と同じく、遺産分割の対象となる財産に含まれます(平成28年12月19日最高裁大法廷決定による)。
したがって、相続が開始されると、遺産分割が終わるまでは、相続人であっても、勝手に預貯金債権を引き出すことができなくなります。
しかし、預貯金債権をまったく引き出せないとなると、葬祭費用や相続税の支払いなどについて、被相続人の預貯金債権を使うことができなくなります。

相続法改正では、相続人が、被相続人の遺産である預貯金債権について、一定額までは、他の相続人の同意がなくても、単独で払戻し(引出し)ができるとする制度を新設しました。
なお、単独で払戻しができる「一定額」とは、原則として「相続開始時の預貯金債権の額×3分の1×払戻しを求める相続人の法定相続分」という計算式で求めた金額です。

自筆証書遺言の方式緩和

現在の民法の下では、自筆証書遺言は全文の自書(手書き)が要求されています。
したがって、たとえ遺言書の一部をパソコンなどで作成したにすぎなくても、遺言の全体が無効となってしまいます。
しかし、全文の自書は遺言者にとって負担が重いことが問題視されていました。

相続法改正では、自筆証書遺言に添付する財産目録(相続財産の一覧表)に限り、財産目録の各ページに署名押印することを条件に、自書でなくてもよいことにしました。
たとえば、財産目録をパソコンのワープロソフトで作成することや、預金通帳をコピーして添付することなどが可能となります。

本年度(平成30年度)の宅建試験ではどのように出題されるか?

本年度の宅建試験では相続法改正は出題範囲外です。

本年度(平成30年度)の宅建試験は「平成30年(2018年)4月1日」の時点で施行されている法令が出題されます。

したがって、以上で説明した相続法改正は、本年度の宅建試験の出題範囲外です。

ただし!民法の特定の問題で出題可能性がある

宅建試験の民法では、「(平成○○年4月1日現在施行されている)民法の条文に規定されているものはどれか。」という形の出題がなされています。
たとえば、平成29年度は「問4」、平成28年度は「問1」で出題されています。

つまり、本年度の宅建試験の民法では、「平成30年4月1日現在施行されている民法の条文に規定されているものはどれか。」という出題が予想されます。
このとき、相続法改正の内容が選択肢にあっても、平成30年4月1日現在は施行されていませんから、「施行されていない(×)」と解答しなければなりません。

予想問題を確認しよう

たとえば、以下のような【問】が出題されることが予想されます。
(1)~(3)の選択肢は、すべて相続法改正の内容ですから、本年度の宅建試験では「施行されていない(×)」と解答します。

【問】平成30年4月1日現在施行されている民法の条文に規定されているものはどれか。
(1) 相続に際して生存配偶者の居住権を保護するため、一定の要件の下で、生存配偶者に対して配偶者短期居住権又は配偶者居住権を保障する旨 ⇒ ×
(2) 相続人が、被相続人の遺産に属する預貯金債権について、他の相続人の同意がなくても、一定額までは単独で払戻しができる旨 ⇒ ×
(3) 自筆証書遺言に添付する財産目録は、当該財産目録の各頁(各ページ)に署名押印をすれば、自書による必要がない旨 ⇒ ×

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